スタートアップを取り巻く国内資金調達動向2022まとめ

公開日:2022年12月20日
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2022年はマクロ環境の変動が大きい1年間でした。
インフレ抑制のために先進国で始まった利上げが新興国にも波及し、世界の中央銀行による政策金利の引き上げは上半期だけで80回にも達しました。これは過去最多とみられています。

米国では景気減速への警戒感が強まり、スタートアップの資金調達額は第三四半期までの累計額を前年と比較すると77%程度になり、取引件数ベースでは前年比66%程度となる見通し(※)で、スタートアップを含む企業の経済活動への影響は大きなものとなりました。
日本のスタートアップにもその影響は波及しており、従来の株式や金融機関からの融資による資金調達は長期化・難航するケースが見られ、資金調達手段の多角化が求められました。昨今注目が高まっている負債(デット)性の資金調達「ベンチャーデット」のニーズと活用が広がった1年といえます。

(※)PitchBook Venture Monitor Q3

ベンチャーデット提供プレイヤーの活発な動き

スタートアップ企業へ負債(デット)性の貸付を行う「ベンチャーデット」の国内プレイヤーには、既存プレイヤーの新ファンド立ち上げ、独立系の新プレイヤーの登場といった動きが見られました。スタートアップへの資金の供給の担い手の動きが活発になっており、これまでは国外トレンドと捉えられていたベンチャーデットへの注目が集まっています。

1月:あおぞら企業投資株式会社が、スタートアップに向けたファンド「あおぞらHYBRID2号投資事業有限責任組合」を設立

3月:投資会社大和PIパートナーズがプライベート・デットファンドの「ブルー・トパーズ」を子会社化

5月:SDFキャピタルが、「スタートアップ・デットファンド1号投資事業有限責任組合」を設立

デットファイナンス事例も増加。大型案件も

実際にスタートアップがベンチャーデットを含めたデットでの資金調達を実施し、公表された事例も多くみられました。中には3桁億円規模の大規模な資金調達もあり、大きな話題になりました。

8月:マネーファクタリングサービス「ペイトナー」がスタートアップ・デットファンドの1号案件として資金調達を実施

10月:成長企業向け法人カード「UPSIDER」が金融機関からの融資及び融資枠追加によるデットファイナンスで467億円の資金調達を実施

11月:コミュニティ構築サービスcoorumの「Asobica」が金融機関からの融資枠確保によるデットファイナンスによる3.6億円の資金調達を実施

11月:スキマバイトアプリ「タイミー」が金融機関からの融資及び融資枠追加によるデットファイナンスで183億円の資金調達を実施

スタートアップ支援に関連する政策と法改正

2022年は岸田総理による年頭記者会見で「スタートアップ創出元年」と位置付けられ、国としてスタートアップの活性化を目指す動きも多く見られました。

4月:経済産業省が「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」を発表
スタートアップの各フェーズにおける資金調達の課題と検討のポイントについて、起業間もないシード期からIPO後にわたってまとめられました。

6月:内閣府で「経済財政運営と改革の基本方針2022」・「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が閣議決定
「スタートアップ育成5か年計画を本年末に策定(5年で10倍増)」が盛り込まれました。

6月:経済産業省が「スタートアップ支援策一覧」を発表
補助金や融資などスタートアップにとって直接の支援に繋がる制度の他、スタートアップを支援する側の投資家や自治体・大学に対する税制など、全体で69の支援策が盛り込まれました。

7月:特定投資家に移行可能な個人の要件等について、金融商品取引業等に関する内閣府令が改正
条件が画一的で活用が限られていた「特定投資家」移行への必要要件が弾力化され、要件に3つの新しいパターンが加わり、対象者の数が広がりました。

7月:日本証券業協会が「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」を施行
前述の内閣府令改正と同時に、特定投資家向け勧誘の具体的な内容を定める日証協の自主規制も施行されました。証券会社を通じて、資金調達ニーズのある非上場企業とプロの投資家である特定投資家を繋ぐことが可能となり、非上場企業にとって新たな資金調達の手段が制度整備されました。

8月:スタートアップ担当相とグローバル・スタートアップ・キャンパス構想推進室が新設
様々な省庁に分散していたスタートアップ政策に関わる予算や権限を一元管理し、政策を加速させるために新設されました。担当相には、経済再生担当相の山際氏が任命されています。

12月:「スタートアップ育成5か年計画」の基本方針が発表
スタートアップへの投資額を5年で10倍にする事、スタートアップのための資金供給を強化し、出口戦略を多様化するための取組み等が挙げられています。

特定投資家向け非上場企業投資に関する新制度のスタートアップ支援への活用可能性

7月に行われた特定投資家の要件の弾力化と、「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」の施行は、これからのスタートアップの資金調達市場にとって大きなトピックです。

特定投資家とは、情報収集力、分析能力やリスク管理能力が十分高いことが認められ、一般の投資家では投資することができない有価証券に投資できる投資家を指します。従来より、一定の条件を満たすことで個人の投資家でも移行可能な枠組みでしたが、認定されるための従来の要件が画一的なうえに、投資可能な商品の広がりもTOKYO PRO Marketへの上場企業の株式のみに限られていたことから、その枠組みは十分に活用しきれていませんでした。
この度の改正・施行で、スタートアップ支援への活用可能性も高まったことから、各内容を解説します。

特定投資家要件の弾力化

今回要件に3つのパターンが加わったことで、対象者の数が広がりました。
従来は「純資産3億円かつ有価証券等の資産3億円かつ有価証券の取引経験1年以上」を全て満たしている場合のみ、移行が認められていましたが、改正により、資産や収入要件の組合せの幅が広がったり、特定の知識を持つことを証明できる場合には資産要件が緩和されたりしています。
特定投資家の裾野が広がることで、リスク管理能力とリスク許容度の高い投資家が持つリスクマネーが投資市場で活かされることが期待されます。

特定投資家向け金融商品の拡大

証券会社が非上場株式の勧誘を行うことは日本証券業協会により原則として禁止されていましたが、この度の施行により、リスク管理能力とリスク許容度が十分高いと認められた特定投資家に限って、非上場企業の株式、新株予約権、新株予約権付社債、投資信託、投資証券等(投資証券、新投資口予約権)の勧誘を行うことが可能になりました。

非上場スタートアップにとってこの制度は、エクイティとデットの中間的な性質を持つ新株予約権付社債を特定投資家向けに発行する、という新たな資金調達可能性をもたらします。

特定投資家にとっても、これまで有望スタートアップへのエクイティ投資機会はシード期のエンジェル投資に限られることがほとんどでしたが、新株予約権付社債であれば、更にフェーズが進んだ企業のエクイティを保有でき、更に社債の利息による一定安定した収益も得られるような新たな投資商品が誕生したといえます。

スタートアップへの投資市場が冷え込み、エクイティ調達が難しい市況の今、まとまった資金を調達できる調達手段が生まれたことは大変大きな意義があるといえるでしょう。

また、政策の狙いでもありますが、特定投資家の数と特定投資家私募を活用した資金調達案件が増えるかどうか、来年のスタートアップの資金調達の盛り上がりを左右する一つの課題として注目です。

>>ベンチャーデットに社債を活用する方法についてはこちら

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