スタートアップを取り巻く資金調達動向2023まとめ

公開日:2023年12月22日
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スタートアップ資金調達環境は引き続き低調

2023年は前年に引き続き、スタートアップへの投資活動が低調にとどまりました。このような状況下で、日本では資金調達手段の多角化が、米国では救済目的の増資の動きがみられました。

日本のスタートアップ投資金額は減少傾向で、特にミドルステージに厳しい状況

ベンチャーエンタープライズセンターによると、2023年上半期の国内外のベンチャーキャピタルによる国内スタートアップへの投資金額は1,097億円にとどまりました。これは、2022年度同期に比べて27.2%も減少しています。そもそも2022年度通年の投資金額が前年度に比べて5.8%減少していたため、2年連続の減少トレンドとみられます。

2021年度はコロナ禍の影響を受けた前年からの反動もあり、資金が積極的に株式市場、特に新興企業株に流れ込みましたが、バブル的なトレンドだったことから、2022年度以降現在に至るまで低空飛行が続いている状態です。今年度においても一部の有力スタートアップによる大型調達のニュースが世間を賑わせたものの、一極集中傾向となっている、という声もあります。

この状況において、特にシリーズA以降のミドルステージに位置するスタートアップの多くが資金調達で厳しい状態に置かれていると考えられます。2年前であれば十分大型調達を実現しえた実績や経営陣を有していても、今年の難しい環境下では、調達金額は数億円台前半程度となった企業が多いようです。ミドルステージの企業にとっての理想的な動き方は、線形的な成長としてアーリー期にリリースしたプロダクトの売上を資本投下を抑えつつさらに伸ばし、並行して非線形的な成長につながるストーリーも準備することで、次のエクイティ調達に挑む、というものです。しかし現在の市況下では、線形的な成長を遂げるのに必要な金額ですら十分に集めることができない。一方で大きく調達するためには実績を上げるしかない、という八方塞がり的な状況なのです。

このような背景から、ミドルステージのスタートアップにとっては、株式で調達しきれなかった分の金額を、他の調達手段でまかなう必要があり、資金調達手段の多角化を試みている企業が増加しています。

※参考:
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「直近四半期 投資動向調査 2023年 第2四半期(4 月~6 月)」
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「2022年度ベンチャーキャピタル等投資動向速報」

米国でのスタートアップ投資金額は、日本以上に大幅減少

日本と同様、米国においてもスタートアップの資金調達環境は厳しいものでした。米国の2023 年上半期のスタートアップ投資金額は、前年通期のわずか3分の1にとどまっています。内訳としても、すべてのステージに対する投資金額が前年対比減少しました。

ただし、日本とは異なる動きとして、シリーズE以降のスタートアップに対する「レスキュー・ファンディング」、すなわち成長のための投資ではなく救済目的の増資が見られます。

また、株式上場およびM&Aを行ったExit企業の時価総額も大きく落ち込んでおり、今年度上期実績は前年通期のたった16%の水準でした。通年では過去10年間で最低となる可能性が高いとみられています。また、1件当たりの Exit金額も小型化しています。

※参考:一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「2023 年上半期の米国 VC 投資動向」

ベンチャーデット事業者の動向

日本における資金調達環境の悪化により、ミドルステージのスタートアップを中心に、エクイティ以外の資金調達手段を模索していることから、ベンチャーデット事業者(資金提供を行うプレイヤー)は、昨年に引き続いて実績を伸ばしています。

各ベンチャーデット手法の事業者いずれもが実績を伸ばす

ベンチャー企業へ負債(デット)性の貸付を行うベンチャーデット事業者には、銀行系ファンド、ベンチャーデットファンド、レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)、証券会社などがあります。

ベンチャーデット手法ごとの主な事業者には、銀行系ファンドとして、あおぞら企業投資や静岡キャピタルが、ベンチャーデットファンドとしては、SDFキャピタル、大和ブルーフィナンシャルが、RBF事業者としては、Yoii Fuel、Flex Capitalなどが挙げられます。

昨年に引き続き各社が実績を伸ばしており、スタートアップの資金調達プレスリリース内でも、エクイティ調達額だけでなく、デットによる調達額も合算して公表するケースが増えました

政策課題である社債市場の活性化にもつながる、ベンチャーデットへの社債活用

伝統的な金融商品である社債も、デット性の資金調達手段のひとつです。日本では、米国と比べ社債市場の規模が小さく、発行額、残高はいずれも10分の1もありません。民間企業の金融負債のうち、日本では8割以上を借入(銀行融資)が占め、社債は1割程度しかないのに対し、米国では5割ほどが社債でまかなわれています。

本来社債はベンチャーデットを実現する選択肢となるはずですが、日本では前述の通り借入に偏重していること、また社債の保有者も銀行中心であることから、社債市場の活性化が課題に挙げられています。

Siiibo証券は、社債専門の証券会社としてベンチャーデットを提供するユニークなプレイヤーとして、2023年も引き続きスタートアップを中心とする幅広い企業の資金調達支援を行いました。政策としても課題意識が持たれている社債市場の活性化に向けて、スタートアップを始めとする公募債を発行しづらい企業への資金調達の選択肢として、社債の活用を進めやすくなるよう取り組んでいます。

※参考:日本証券業協会「社債市場の活性化に向けた今後の検討について」

新たなベンチャーデット事業者の登場

ベンチャーデットのニーズが旺盛なことから、前述のベンチャーデット事業者に加え、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC) や、大手金融機関と新興プレーヤーの協働による事例もみられました。

CVCもベンチャーデットを提供

CVCがベンチャーデットを提供している例として、JA三井リースの新株予約権付きローンがあります。一般的なCVCは、親会社の主業とスタートアップの事業シナジーを重視して投資先を選定しますが、資本構成に不可逆性のあるエクイティ投資と異なり、デットの方が柔軟に投資先の幅を広げることができるのがポイントといえます。

既存金融機関と新興プレイヤーの協働によるベンチャーデット活性化に期待

大手金融機関と新興プレーヤーの協働によるベンチャーデット事業の開始事例もみられました。2023年11月、みずほファイナンシャルグループと法人カードを提供するスタートアップのUPSIDERが、共同で100億円規模のグロースステージのスタートアップ向けデットファンドを設立することを発表しました。既存事業で独自の与信モデルを持つUPSIDERのノウハウを活用することが特筆されます。

既存の金融機関における通常の融資審査やリスク管理の枠組みでは、スタートアップへの資金提供が一般的に難しいとされますが、他事業者との連携によって、これまでよりもベンチャーデットに取り組みやすくなることが期待されます。このことから、金融機関と新興企業双方の強みを生かした協働事例は今後も増えていくと考えられます。

※参考:三菱総合研究所「令和4年度中小企業実態調査事業(スタートアップの資金調達に関する企業の実態調査および検討会実施等)調査報告書」

100億円規模のデットファイナンス事例

数あるスタートアップによる資金調達公表リリースの中でも、数百億円規模の大型デットファイナンス事例が耳目を集めました。

大型の銀行融資枠

2023年9月、タイミーは大手3行から総額130億円のコミットメントライン(融資枠)契約の新規・追加締結を実施したと発表しました。同社は大型調達実現のポイントを「想定を上回る成長実績、事業から創出されるキャッシュフローの拡大、資本の蓄積に基づく良好な財務基盤等」と公表しており、金融機関との継続的な折衝と実績の積み上げにより、信用力への評価を勝ち取ったものとみられます。

ベンチャー企業が民間金融機関から融資を受けるには、そもそもトラックレコード(過去の実績)や赤字がネックになりやすく、その上で審査基準の高さや、保証人の必要性(信用保証協会)・コベナンツなど借入条件の厳しさ、折衝にあたる時間といったハードルがありますが、本件はスタートアップであっても民間融資の扉を開くことができるという好事例となりました。

日本におけるベンチャーデット支援、ひいてはスタートアップの資金調達支援には、既存金融機関による貢献の余地は大きいと考えられ、今後の展開も期待されます。

※参考:株式会社タイミー「成長に向けた事業資金として総額130億円の資金調達を実施」

スタートアップ資金調達手段の多角化は今後も続く見通し

2023年におけるスタートアップを取り巻く資金調達環境は、前年から引き続き厳しいものとなりました。それでもなおスタートアップ側としては、次の好景気を迎えるまで少なくとも生き延びるための資金調達が必要なことから、エクイティファイナンス以外の資金調達手段への取り組みは、まだまだ続くものと考えられます。

現在、政府の推進するスタートアップ育成5か年計画に含まれるのは、エクイティ調達やスタートアップ設立支援施策が中心となっていますが、デットを活用したミドルステージの企業への支援も、将来ユニコーン100社創出を目指す過程において重要であり、これに焦点を当てた取り組みも広がるべきだと考えられます。

来年以降も資金ニーズが旺盛なことから、ベンチャーデットをはじめとする事業者の果たす役割は大きいといえます。中でもベンチャーデットファンドは、既存金融機関も比較的参入しやすいことから、ますます増えていくのではないでしょうか。草の根的なデット調達支援拡大によって、日本でも米国のように成長ステージに応じた資金調達手段の多様化が進むことが期待されます。

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