ベンチャーデットとは?メリットを理解し、資金調達手段を組合せて経営に活用

公開日:2022年9月28日
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ベンチャーデットとは

ベンチャーデットとは、スタートアップをはじめ、リスクを取ってイノベーションを起こそうとする企業に対する、デット(負債)性の資金調達手段を指します。

これまで日本におけるスタートアップの資金調達手段といえば、株式発行が主流でした。すなわち、金銭と引き換えに、ベンチャーキャピタルに代表される投資家へ自社の株式を割当てる方法です。株式発行は、貸借対照表(バランスシート)における資本の項目が増加することから、エクイティ(資本)性の資金調達手段です。
一方で、デット性の資金調達手段はいわゆる「借入」に該当し、調達を行うとバランスシートでは負債の項目が増加します。デットファイナンスでは、返済期限が存在するのが大きな特徴です。

一見すると、返済義務のないエクイティファイナンスの方が優れた手段に思われますが、当然それぞれにメリット・デメリットが存在することから、欧米ではベンチャー企業であっても、エクイティファイナンスとデットファイナンスを戦略的に組合せることが一般的になっています。

近年は日本でもベンチャーデットの選択肢が増えてきたことから、今後さらに活用が進んでいくと考えられます。

欧米でのベンチャーデットの事例の詳細は、アメリカの事例から学ぶ、ベンチャーデットの市場規模や利用企業の広がりとは?の記事も参照してください。

融資との違い

ベンチャーデットは、借入という点では銀行をはじめとする金融機関からの融資と共通しています。
伝統的な融資における課題として、企業のキャッシュフロー(実績がポジティブである)や担保(固定資産や経営者保証など)の有無を元に、融資の可否や融資額を判断することから、将来の大きな成長のために敢えて赤字を掘ることも多いスタートアップにとっては、不向きであったり、十分に活用できなかったりするケースが少なからずありました。

対するベンチャーデットの場合、将来的な資金調達の可能性に基づいて、貸付の可否が判断されます。借入れる側の企業目線としても、ベンチャーデットで調達した資金を元に更なる成長・実績作りを進めた後に、ベンチャーキャピタルからより良い条件での出資を引き出すチャンスを作れる可能性があります。

このように、ベンチャーデットでは資金の貸し手が融資と比較してリスクを取っていること、また借り手もエクイティの補完手段として活用していることが金融機関からの融資との大きな違いです。

ベンチャーデットを活用するメリット

これまでご紹介したとおり、ベンチャーデットはエクイティファイナンスを補完する位置付けであることから、そのメリットはエクイティのデメリットを補うものになっています。

エクイティと比較した資本コストの低さ

資本コストの観点では、今後飛躍的な成長が期待されるベンチャー企業にとって、株式発行によるコストは大きなものになります。返済義務がなく、配当金も出さないのが一般的なため、現時点でのスナップショットを切り取るとまるで資本コストが発生していないように誤解されることもありますが、将来の株価上昇によるキャピタルゲインを加味すると、実は大きな資本コストと引き換えに調達していることになります。

他方、ベンチャーデットの場合、通常金融機関からの融資との比較では高い金利水準での借入とはなりますが、先々の成長・株価上昇を考えると、相対的な資本コストは株式発行の場合よりも小さくなります
特に、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成した状態の企業にとって、事業規模拡大のための資金調達であれば、デットによる調達の方が経済合理性が高くなります。詳細は後ほど「活用に適したタイミング」でご説明します。

資金使途の自由度

前述の資本コストの小ささもあり、ベンチャーデットで調達した資金の使途の自由度は高くなります。必ずしも成長に向けた投資に使う必要がないため、運転資金、設備投資、ランウェイの確保といった目的に用いられます。

特に、不景気や市況の悪化で、計画通りの事業拡大が望めなかったり、ベンチャーキャピタルからの調達が芳しくなかったりする時期においては、ベンチャーデットを効果的に活用することが「生存戦略」の一つの肝となります。

なお、金融機関からの融資の場合、資金使途は予め審査時に合意していることから、資金使途違反を犯すと今後の追加融資が難しくなる可能性があります。

このように資金使途の観点でも、ベンチャーデットは経営の柔軟性を拡大する手段といえます。

経営への影響の小ささ

企業の経営権に影響を及ぼさないのも、ベンチャーデットのメリットのひとつです。ベンチャーデットでは、貸し手の立場は債権者であり、借入れた分の返済が完了すれば、関係は解消されます。

株式発行の場合、出資者が株主、すなわち会社の所有者となり、持ち分に応じた議決権を持つようになります。また、希薄化が起こるため、経営陣の持株比率も同時に減少します。
特に、ブリッジファイナンスのような一時的な資金調達目的でエクイティファイナンスを行ってしまうと、計画外の希薄化・経営権の分散を起こしてしまい、その先の資金調達ラウンドに悪影響を及ぼす可能性もあるため、株式発行には慎重な判断が求められます。

経営権への影響の有無は、株式発行による調達と大きく異なるポイントです。

いつベンチャーデットを活用すべきか

上手く活用することで、経営の選択肢を広げ、リスク軽減に役立てられるベンチャーデットですが、あらゆる企業、あらゆるタイミングで万能というわけではありません。

活用に適した事業ステージ

いわゆるシードステージで、まだサービスローンチしておらず、メンバーも集まっていない、という状況では、ベンチャーデットの活用は難しくなります。
ベンチャーデットは企業の将来性を元に貸付を行うとはいえ、今後ベンチャーキャピタルから出資を受けられそうかを判断するための材料がまだ不足している段階だからです。

もし借りられたとしても、シードステージに特化したベンチャーキャピタルやエンジェル投資家は、将来の非線形成長に賭けて出資を行うため、せっかくの資金を借入金の返済に充てることを望みません。

従って、シードステージのうちは、エクイティファイナンスまたは自己資金によって次のステージまで成長させることが定石といえます。

アーリーステージに入ると状況は変わり、ベンチャーデットの活用可能性が高まります。プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成すると、ユニットエコノミクス(UE)が成立し、いくら投資をするとどの程度の期間で回収できるのかがおおよそ計算できるようになります。

言い換えると、一定の投資を行えれば一定の事業規模まで拡大できることが見えている状態であり、ベンチャーデットとの相性が良い段階です。

借り手にとって「やってみないとわからない」要素が少ないにも関わらず高い調達コストをかけるのは不相応ですし、貸し手にとっても、成長が見込めてその後の資金調達可能性も高そうな企業に対しては、貸出しやすくなります。

活用に適したタイミング

アーリーステージ以降の企業においても、特にベンチャーデットを活用しやすいタイミングがあります。それは、エクイティファイナンス直後です。

キャッシュフローがポジティブなタイミングでわざわざデットファイナンスを行うのは矛盾しているようですが、実は合理的な判断といえます。エクイティ調達直後は、企業の信用力や交渉力が最も強く、条件を取りまとめるためにかかる時間も短く済む可能性が高いためです。

経営状況が悪くなってからの折衝では、どんどん泥沼に陥ってしまうおそれがあります。景気サイクルを見据えて中長期的な経営を行う上では、好条件を引き出せるタイミングでベンチャーデットを活用しておくのも選択肢の一つといえるでしょう。

どんな条件で調達できるのか

日本におけるベンチャーデットのプレイヤーはまだ限られているため、具体的な調達条件については公表されていないケースも多いのが現状です。

まず、調達金額の規模感としては数千万円~数億円程度とされます。米国では一般的に、前回エクイティ調達額の30%を上限の目安とすることが多いようです。

金利水準については3~12%程度といわれています。中小企業向けの制度融資と比較すると金利水準は高めですが、これは一定のリスクを織り込んでいること、また、融資上限額以上の調達を目指す場合に他の調達手段が限られていることを反映したものです。

返済期限については、1~3年程度の場合が多くなります。ベンチャーデットの性質上、次回のエクイティ調達以降まで引き延ばす必要性は低いことから、年限は短中期で設定されます。

ベンチャーデットの活用にかかるコスト

ベンチャーデットを利用するにあたって必要なコストは、利息の支払いだけではない点に注意が必要です。費用の内訳は一般的に以下の3つが挙げられます。

  • 支払利息
  • 手数料
  • 新株予約権(ワラント)

コスト総額は企業の信用力によって変わるものの、特に留意が必要なのは新株予約権の付与です。

位置付けとしては、ベンチャーキャピタルからの出資見込みや事業特性に基づいた与信判断に加え、信用リスクを補完するもの、いわば担保の一種として、新株予約権が組合わされることがあります。すなわち、手数料収入や返済期間までの利息収入だけでなく、借り手企業がイグジットした際には貸し手もアップサイドを得られる可能性があるということです。

スキームとしては転換社債(正式名称は、転換社債型新株予約権付社債)のケースと新株予約権付融資のケースに大きく分けられますが、いずれの場合も借り手の企業にとってはエクイティとしてのコストが発生することになります。

コスト総額に対し新株予約権が占める割合がどの程度になるかは明確に開示されていませんが、米国では一般的に貸付額の5~20%程度といわれています。

なお、新株予約権は必ず付与しなければならないわけではありません。例えば普通社債の発行によるベンチャーデットの実行であれば、純粋なデット性の調達となります。

どのように調達先を選べば良いのか

前述のとおり、調達条件とコストはそれぞれの貸し手による与信判断によって変わってくるため、自社の財務状況と目的に合わせてベンチャーデット事業者を選ぶことが重要です。
総合的な資本コスト、資金使途制限の有無、新株予約権付与の有無、コベナンツ(財務制限条項など)付与の有無といった点を総合的に判断し、調達によって得られる資金と、先々の経営の自由度とのバランスを取りながら意思決定をすることになります。

ベンチャーデットのデメリット

ベンチャーデットのデメリットには、以下の点が挙げられます。

  1. 返済義務がある
  2. 調達可能な金額に上限がある
  3. 必ずしも純粋なデットファイナンスとならない場合がある

まず、ベンチャーデットは借入に該当するため、当然ながら返済義務があります。特に一括返済となっている場合、計画的な資金繰りが必要です。

次に、調達可能な金額は無制限ではありません。ベンチャーデットは将来の資金調達可能性に基づく補完的手段とされるため、例えば大型のエクイティファイナンスのように数百億円規模をベンチャーデットで調達することは難しいといえます。また、日本ではまだベンチャーデット事業者が少ないため、複数の事業者を組合せて利用したとしても、実質的に上限額が存在する状況になります。

最後に、貸し手に新株予約権を付与してベンチャーデットを実施する場合は、純粋なデット性調達にはなりません。将来的に、エクイティ調達と同様のデメリット(希薄化、経営権の分散)が発生することを念頭に置く必要があります。

ベンチャーデットの活用で、市況に負けない経営基盤の確立を

ベンチャーデットとは、企業の将来的な資金調達可能性に着目したデット性の資金調達手段です。株式発行ではなく、社債発行や融資、またはそれらにワラント(新株予約権)を付けた形で実行されます。資金の借り手となる企業にとっては経営権の希薄化を防ぎながら資金調達できるのが大きな特徴です。

日本ではまだベンチャーデット事業者が増え始めたタイミングですが、欧米では既に活用が進んでおり、今後は日本においてもエクイティファイナンスとデットファイナンスを組合せた経営が広がっていくと考えられます。

米国での資金調達環境悪化の影響が日本にも及んできている昨今、資金調達の選択肢を増やし、不況下を生き抜く手段として、ベンチャーデットの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

>>ベンチャーデットに社債を活用する方法についてはこちら

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