スタートアップ企業の資金調達の3つの方法とは?メリット・デメリットと適した状況を解説
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スタートアップ企業が活用できる資金調達の方法は主に3種類
資金調達とは、企業活動に必要な資金を外部から調達することです。スタートアップ企業にとって主な資金調達の手段は次の3種類です。
- デットファイナンス
- エクイティファイナンス
- アセットファイナンス
デットファイナンスは、借入れによる資金調達方法です。具体的な手法としては金融機関からの融資や社債の発行などがあります。エクイティファイナンスでは、株式などの発行によって資金を調達します。アセットファイナンスは、保有する資産を外部に売却して資金を調達する方法です。
返済の義務 | 貸借対照表の項目 | 株主からの影響 | |
---|---|---|---|
デットファイナンス | あり | 負債 | なし |
エクイティファイナンス | なし | 純資産 | あり |
アセットファイナンス | なし | 資産 | なし |
デットファイナンスは負債を増やす資金調達方法
デットファイナンスは簡単にいえば、借金による資金調達です。主な特徴は次の2つです。
- 返済の義務がある
- (有利子)負債が発生する
「借金」という言葉のとおり、デットファイナンスによって調達した資金は貸借対照表において負債の部に記載され、返済の義務を負います。
例えば政府系金融機関や民間の銀行から借入れをおこなった場合は期日までの返済を求められます。社債を発行した場合も同様に、投資家へ返済しなければいけません。また返済にあたってはいずれの場合も基本的に元本に利息を加えて支払います。
金融機関や社債の購入者からは元金の確実な返済が期待されるだけで、経営への参加や事業の成長は求められません。
しかしながら、そもそも売上や黒字幅が小さい段階では一般的な融資を受けるハードルが高い点には留意しましょう。
デットファイナンスのメリットとデメリット
デットファイナンスには主に4つのメリットと2つのデメリットがあります。
メリット
- 選択肢が多い
- 返済する金額が分かりやすい
- 返済によって信用力を高められる
- 経営へ関与されない
デメリット
- 自己資本比率が下がる
- 返済が負担になりうる
メリット・デメリットのそれぞれについて解説します。
デットファイナンスの4つのメリット
1. 選択肢が多い
もし民間の銀行で審査に落ちてしまっても、政府系金融機関であれば条件を変えて融資を受けられる可能性があります。金融機関は数が多く、異なる融資の条件を設けている先もあるため、選択肢の多さはメリットといえるでしょう。
2. 返済する金額が分かりやすい
借入れや社債発行の際には、返済にあたって支払うべき利息があらかじめ決まっています。また、返済期間や返済期限も借入れ時・発行時に設定するため、返済計画を立てやすい点もメリットです。
3. 返済によって信用力を高められる
金融機関や投資家へ滞りなく資金を完済できれば、返済の実績ができて自社の信用力が高まります。信用力が高まれば、今後はより良い条件で融資を受けやすくなるでしょう。
4. 経営へ関与されない
後述のエクイティファイナンスでは株式を発行するため、経営について株主の影響を受ける可能性があります。しかしデットファイナンスでは株主構成が変わりませんし、金融機関や社債権者から経営への関与はありません。
デットファイナンスの2つのデメリット
1. 自己資本比率が下がる
デットファイナンスで調達した資金は貸借対照表の負債の部に記載されると述べました。負債(他人資本)が増えれば自己資本比率が下がります。自己資本比率が低い状態だと、新しく融資を受ける際の審査や補助金・助成金を利用する際の審査では不利になってしまいます。
2. 返済が負担になりうる
金融機関から融資を受けた際、基本的に返済を毎月おこないます。社債を発行した場合には、一般的には半年ごとや1年ごとに利払いを行いながら、返済期限に一括で元本を返還(償還)します。業績が思うように伸びない場合、返済が負担になるかもしれません。返済が滞れば信用力に悪影響をおよぼす他、遅延損害金が発生するなどのリスクがあります。
デットファイナンスの手段1:社債の発行
国が国債を発行するように、企業も社債の発行による資金調達が可能です。社債の募集方法には、公募と私募の2種類があります。公募とは、所定の手続きを経て不特定多数の投資家を対象に取得勧誘する方法です。一方で私募は取得勧誘の対象者を50人未満に絞る必要があります(少人数私募の場合)。
スタートアップ企業には私募債での資金調達がおすすめです。公募にあたっては、有価証券届出書などの提出義務や格付けを取得する必要があり、現実的に実施が困難です。私募の場合はこうした手続きやコストが不要なため、公募債を利用できない企業でも社債を発行できます。
返済については利息を半年または1年ごとに支払い、元本は満期日(償還日)に一括償還するケースが一般的です。また私募債は無保証・無担保で発行できます。
デットファイナンスの手段2:民間金融機関からの融資
都市銀行、信託銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合などから借入れを行う方法です。民間金融機関からの融資には「プロパー融資」と「保証付き融資」の2種類あります。
プロパー融資
民間金融機関から直接、融資してもらう方法で、審査基準が厳しいのが特徴です。まだ実績のないスタートアップ企業にはハードルが高いといえるでしょう。
保証付き融資
信用保証協会に保証人となってもらって民間金融機関から融資を受ける方法です。信用保証協会とは個人事業主や中小企業など返済能力が低い事業者でも金融機関からの融資を受けられるよう、保証人となる機関です。いくつか注意点はあるものの(参考記事)、スタートアップ企業にとってはプロパー融資よりも利用しやすいといえるでしょう。
デットファイナンスの手段3:政府系金融機関からの融資
政府系金融機関からの融資のうちスタートアップ向けで代表的なものは、日本政策金融公庫の融資制度です。日本政策金融公庫は政府系金融機関の1つで、小規模事業者や中小企業の資金調達・業務改善をサポートする業務をおこなっています。
日本政策金融公庫では「新規開業資金」や「新創業融資制度」などさまざまな制度を提供しています。
新規開業資金
新規開業資金の主な要件(※1)は下記です。
- 対象者:新たに事業を始める人または事業開始後おおむね7年以内の人
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間:設備資金は20年以内 / 運転資金は7年以内
(※1)参考:新規開業資金|日本政策金融公庫
新創業融資制度
新規開業資金など他の制度に、新創業融資制度を併用すれば、無担保・無保証人で融資を受けられます。新創業融資制度の主な要件(※2)は下記です。
- 対象者:新たに事業を始める人または事業開始後税務申告を2期終えていない人
- 融資限度額:3,000万円(うち運転資金1,500万円)
- 返済期間:各融資制度に定める返済期間以内
- 担保・保証人:原則不要
なお、利用には創業計画書の提出が必要です。
(※2)参考:新創業融資制度|日本政策金融公庫
エクイティファイナンスは純資産を増やす資金調達方法
エクイティファイナンスは株式を発行して資金調達する方法で、調達した資金は貸借対照表の純資産の部に記載されます。主に次の2つの特徴があります。
- 返済の義務がない
- 資金の出し手が株主となるため、経営に影響を与える可能性がある
エクイティファイナンスによる資金調達は借金ではないため、返済の義務がありません。しかし出資者は株主となり会社の所有権の一部を保有することになるため、株主として経営に影響を与える可能性があります。
エクイティファイナンスのメリットとデメリット
エクイティファイナンスには主に3つのメリットと2つのデメリットがあります。
メリット
- 返済義務がない
- 自己資本を増やせる
- 経営のアドバイスを受けられる可能性がある
デメリット
- 経営の自由度が下がる可能性がある
- 資本コストが高い
エクイティファイナンスの3つのメリット
1. 返済義務がない
エクイティファイナンスでは資金の返済義務や利息の支払い義務がありません。返済期限における資金繰りが縛られない点はメリットといえるでしょう。
2. 自己資本を増やせる
エクイティファイナンスで調達した資金は純資産に計上されるため、自己資本比率を高められます。今後金融機関からの融資を利用する場合にも、審査における信用力が改善し、財務面での評価が高くなります。
3. 経営のアドバイスを受けられる可能性がある
エクイティファイナンスの出資者はキャピタルゲインを目的とするため、収益を伸ばし、黒字を拡大していくためのアドバイスに積極的である可能性があります。スタートアップ企業にとっては強力なサポートになりえるでしょう。
エクイティファイナンスの2つのデメリット
1. 経営の自由度が下がる可能性がある
エクイティファイナンスは株式発行による資金調達のため、株主が増えます。株主は保有する株数によって議決権を持つため、場合によっては社内の望みどおりの経営をしづらくなる可能性があります。
なお、ある社外株主の持ち株比率が過半数となると株主総会普通決議で、2/3を超えると株主総会特別決議で単独可決ができるため、社内では経営権を失ってしまいます。
株主はリスクを取って出資していることから、持ち株比率が過半数に満たないとしても、株主間契約などにより定期的な事業計画の共有や進捗報告・討議が義務付けられている場合も一般的です。
2. 資本コストが高い
エクイティファイナンスにおける出資者の主な目的は、株価の上昇による売却益です。また、上場後には配当金をはじめとする株主還元も期待されます。
したがって、エクイティファイナンスはデットファイナンスのような返済義務がない一方で、大きなリターンが期待されている、資本コストが高い資金調達手段になります。
ただし、そもそも企業の成長や上場、M&Aが期待できないと判断されてしまうと、出資してもらうこと自体が難しいでしょう。
エクイティファイナンスの手段1:ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルは成長が見込めるスタートアップ企業に投資する投資会社または投資ファンドです。ベンチャーキャピタルに出資してもらうには、事業の成長性や市場の有望性、経営者の理念などをしっかりと伝え、上場やM&Aの可能性を示す必要があります。
なぜならベンチャーキャピタルは将来株価が上がった際に株式を売却し、キャピタルゲインを得る目的で投資を行うからです。逆にいえば、キャピタリストから上場のサポートや業績を伸ばすためのアドバイスなどを受けられる可能性も高いでしょう。
エクイティファイナンスの手段2:コーポレートベンチャーキャピタル(事業会社)
コーポレートベンチャーキャピタルでは大企業をはじめとする事業会社が、相乗効果を期待できそうな(スタートアップ)企業に対して出資(純投資)します。
ベンチャーキャピタルとの違いは投資の目的です。ベンチャーキャピタルの投資目的は先述のとおりですが、コーポレートベンチャーキャピタルの投資目的は新規市場の開拓や、新しいアイデア・ノウハウの獲得です。
資金だけでなく大企業が持つ設備やネットワークなどのサポートが見込め、高い信用力のもとで営業活動をおこなえる可能性があるといったメリットがあります。
エクイティファイナンスの手段3:エンジェル投資家
エンジェル投資家とは、スタートアップ企業を支援する個人投資家のことです。投資の目的はベンチャーキャピタルと同様です。
エンジェル投資家と出会うにはピッチコンテストや交流会といったイベントへの参加や、マッチングサイトを利用する方法があります。
エンジェル投資家には、スタートアップ経営者や元経営者も多く、会社のフェーズに合わせた具体的なアドバイスを受けられる可能性もあります。
アセットファイナンスは既存の資産を現金化する方法
アセットファイナンスは自社が保有する資産を売却して資金を調達する方法です。売却する資産としては不動産や自動車などの有形固定資産だけでなく、商標や特許権といった無形固定資産、流動資産である売掛債権も対象です。
アセットファイナンスには固定資産の売却やリースバック、ファクタリングサービスの利用といった方法があります。ファクタリングサービスとは手数料を払って売掛債権を業者に売却し、回収期日よりも早く資金調達できるサービスです。
スタートアップの資金調達方法はおもにデットファイナンスとエクイティファイナンス
紹介した3種類の資金調達方法のなかで、スタートアップ企業に向いているのはデットファイナンスもしくはエクイティファイナンスです。なぜならスタートアップの段階では売却できる資産に乏しく、アセットファイナンスの活用が難しいケースが一般的だからです。
デットファイナンスに向いている状況
デットファイナンスが向いているのは、きちんと資金を返済できる見込みがあるケースです。言い換えると、キャッシュフローを生み出せている状態であれば、デットファイナンスを検討可能です。デットファイナンスによって効率的に事業を成長させることで、次回のエクイティファイナンスをより好条件で実現させる、という使い方がスタートアップ企業にとって有効です。
エクイティファイナンスに向いている状況
事業の難易度が高く多くの資金が必要だとしても、成長・発展が十分に見込めるなら、現在は赤字だとしてもその成長性を重視して出資してもらえるエクイティファイナンスが向いています。
スタートアップ企業は一般的に、キャッシュフローを生み出せるようになる前の段階から、事業を成り立たせるために、自己資金ではまかなえないほど多額の資金が必要となります。業績が赤字の時点では、そもそも金融機関からの融資は受けられない可能性が高く、もし融資を受けられたとしても返済が大きな負担になりかねません。エクイティファイナンスを行うことにより、事業を成長させると共に、自己資本を増やせることから財務面で外部からの信頼性が上がり、将来的に金融機関からの融資を受けやすくなる可能性もあります。
状況に合った資金調達手段の活用で経営安定化へ
本記事では、スタートアップ企業が活用できる資金調達手段について、デットファイナンス、エクイティファイナンス、アセットファイナンスのそれぞれのメリット・デメリットや具体的な方法をご紹介しました。
各手法の特徴を把握し、自社の状況に合った資金調達手法を活用できると、安定した経営の実現に近づけるでしょう。