スタートアップがデットファイナンスを行う意義とは?利用可能な手段も紹介

公開日:2022年11月17日
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スタートアップの成長に不可欠な要素の一つが資金調達です。線形に成長するスモールビジネスとは異なり、スタートアップの成長曲線は「Jカーブ」を描きます。Jカーブとは、事業開始直後の数年間は赤字を掘るものの、その後は短期間で急成長することで黒字化し、投資した資金を回収する、という時間に対する利益の変化を表すものです。すなわち、大きな売上が立つ前から仮説検証や人材確保・広告宣伝などに資金が必要となるため、自己資金ではまかなえないほど大口の資金調達を行うことになります。

このことから、スタートアップの資金調達は、ベンチャーキャピタルからのエクイティファイナンスが一般的な選択肢とされます。一方でデットファイナンスも、かつての中小企業向けのイメージが払拭されつつあり、スタートアップ向けの制度・サービスが増えてきました。本記事では、スタートアップにとってのデットファイナンスの位置付けを紹介し、資金調達戦略立案の参考となる情報をまとめています。

スタートアップの主な資金調達手段

スタートアップにとって資金調達の選択肢は、大きくデットファイナンスとエクイティファイナンスの2つに分けられます。他にアセットファイナンスという手段もありますが、売却するための資産に乏しいスタートアップが積極的に活用するのは難しいといえるでしょう。まず本章では、デットファイナンスとエクイティファイナンスの特徴と違いを4つの観点から解説します。

  デットファイナンス エクイティファイナンス
B/S上の計上 負債の部 純資産の部
返済義務
資金の出し手の立場 債権者 株主
資金の出し手の期待リターン 年利数%から十数% 年利30%以上
(トータルで20倍~)

デットファイナンスの特徴

デットファイナンスは、借入などにより負債(デット)として資金調達を行うことを指します。貸借対照表(バランスシート; B/S)上では右上の「負債の部」に計上されます。負債は他人資本(または外部資本)とも呼ばれ、その名の通り、他人に対しての返済義務と返済期限があります。

資金の出し手の立場は債権者となりますが、返済が完了すれば関係は消滅し、元通り他人に戻ります。資金の出し手が期待しているのは、元本と利息が計画通り支払われることです。利率はデットファイナンスの種類にもよりますが、数%から十数%の水準内が一般的です。

後述するエクイティファイナンスと比較すると資金の出し手の期待リターンが低い分、決まった期間での一定確実な返済が期待されており、返済さえなされればそれ以上の介入はないことが特徴の資金調達手段といえるでしょう。

エクイティファイナンスの特徴

エクイティファイナンスは、株式発行により株主資本(エクイティ)として資金調達することを指します。貸借対照表上では右下の「純資産の部」に計上されます。

資金の出し手の立場は株主となります。すなわち、返済がない代わりに会社の所有権を一定割合渡すことになります。株主は共益権(会社の経営に参加できる権利)と自益権(会社から経済的な利益を受けられる権利)を持ち、株式を保有している限りこれらの権利を持ち続けます。

資金の出し手が期待しているのは、株価(企業価値)が上昇し売却益を得ることです。期待リターンの数値は、スタートアップのどのステージで出資するかにもよりますが、20倍程度といわれることが多いようです。主な資金の出し手であるベンチャーキャピタルのファンドの運用期間は一般的に10年間ですが、ファンド設立当初に出資を受けたと仮定しても、年平均35%の成長を10年間継続することが期待されていることになります。実際には複数の投資先の中で、利益が出ないもの、時には100倍以上のリターンが出るものも入り混じった上で、ファンド全体で「10年で3倍」の掟があるといわれます。

日本の資金調達市場の現状では、数億円規模以上の大きな金額を調達するならエクイティファイナンス、と捉えられがちではありますが、デットファイナンスと比較して資金の出し手の期待リターンが高く、資本構成に不可逆性があることには十分な留意が必要です。

※参考:後藤直義、フィル・ウィックハム『ベンチャー・キャピタリスト』NewsPicksパブリッシング、 2022年

スタートアップがなぜデットファイナンスを利用するのか

スタートアップでは事業や会社の成長フェーズに合わせて、解くべき課題と必要なリソースが変わっていきます。また、マクロ環境の影響も避けることはできません。2022年第3四半期(7~9月)における米国でのベンチャーキャピタルの投資額は、前年同期の半分に落ち込み、あらゆるスタートアップにとって資金調達の難しさが高まっています。
その中で資金調達は、後戻りできない要素も含まれることから、予め先のステージや外部環境に起こりうる変化も織り込んだ上で、自社にとって最適な調達方針を定めていくことになります。

※参考:日本経済新聞 「米スタートアップ投資、7~9月半減 大型調達100件切る」

デットファイナンスに向いている状況

前章で紹介した特徴を踏まえると、デットファイナンスの活用に向いているのは、当然ながら「借入金の返済の目処が立っている」状況です。ただしスタートアップにとっては、自営業や中小企業のような「黒字化できているが、劇的な急成長を遂げる予定ではない」状況とは異なります。

デットにはレバレッジ効果があります。レバレッジ効果とは、他人資本と自己資本を組み合わせることによって、自己資本のみの場合よりも高い利益率を上げることを指します(当然ながら、デットに支払う利率の方が利益率よりも低い前提です)。
スタートアップはレバレッジ効果によって、次回のエクイティファイナンスを有利に運べたり、市況が厳しい時の選択肢が増えたりと、戦略的に経営を行いやすくなることを狙って、デットファイナンスを効果的に活用すべきなのです。

シード期のデットファイナンス手段

シード期のスタートアップは、まだ売上が立っておらず、資金調達手段が限られています。デットファイナンスの選択肢としては、金融機関からの融資のうち、次に紹介する新興企業向けの特別なメニューを利用することになります。

日本政策金融公庫による創業融資

日本政策金融公庫は政府系金融機関のひとつで、一般の金融機関が行う金融を補完することを目的としています。
通常の融資はトラックレコード(過去の実績)がなかったり、赤字企業だったりするとそもそも貸出し自体が難しいものですが、日本政策金融公庫はシード期のスタートアップでも利用可能な融資制度を複数提供しています。

新創業融資制度

新創業融資制度は、日本政策金融公庫による無担保無保証人、経営者保証(経営者が企業の連帯保証人となる)無しの融資枠です。

対象は、新たに事業を始める、または税務申告を2期終えていない(創業から2年以内に相当)事業者となっています。新創業融資制度に各融資制度を併用するという使い方となっており、担保・保証人不要の分金利は高くなります

審査においてはトラックレコードを問わない代わりに、創業者の当該事業領域への経験が重視されます。併用する制度にもよりますが、返済期間は運転資金の場合7年以内、設備資金の場合20年以内とされ、据置期間(元本の返済が猶予される期間)は2年以内となっています。申込みから着金までが1ヶ月程度と短いのが特徴です。

良いことづくめのようですが、審査では早期に黒字化する事業計画が評価されやすいことから、本来はスタートアップ向けではない点に注意が必要です。そのためまだ市場のない全く新しい事業モデルにチャレンジしようとしている場合は、エクイティファイナンスに注力する方が適切でしょう。

スタートアップ向けに新創業融資制度と併用可能な、更に金利優遇を受けられる可能性がある制度には、「新規開業資金」(いずれか自社に合うもの)、「新事業活動促進資金」「創業支援貸付利率特例制度」といったものがあります。制度の要件をしっかり把握し、返済計画を立てた上で、自社に合うものを選びましょう。

資本性ローン

先に挙げた制度を利用している場合、同じく日本政策金融公庫が提供する「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」も活用できる可能性があります。

資本性ローンが融資と大きく異なるのは、元本が満期一括返済である点です。利息の返済は毎月発生するものの、利率は税引後当期純利益額に応じて決まり、赤字の間は年利0.90%が適用されることから、金利負担を大幅に抑えることができます。融資期間は5年以上となっており、投資先行型の事業者に適した制度です。

また、資本性ローンと融資の違いとして、金融機関の資産査定上は負債ではなく自己資本とみなされる点もポイントです。負債が積上がりすぎると債務超過(負債の額が資産の額を上回っている)状態になるため、他の金融機関による審査に通りづらくなりますが、資本制ローン分であれば自己資本を厚くしたとみなされ逆に有利になります。

ただし、他の融資制度よりも審査が厳しく時間もかかると言われており、その後も返済期間中は四半期での経営状況報告義務があることには留意しましょう。

市中銀行による新興企業向け融資

市中銀行(中央銀行に対する民間の銀行)からの融資のうち、シード期のスタートアップでも利用できる可能性のある制度があります。シード期にトラックレコードを作り銀行との関係性を築いておくことで、将来プロパー融資を受ける際に交渉をスムーズに進めやすくする、という副次的効果も狙えます。

なお銀行融資全般に共通して、金融業など実質的に融資を受けられない一部の業種がある、融資枠を超えた借入れはできない、といった注意点があります。

制度融資

制度融資とは、信用保証協会、自治体、金融機関の3者が連携して実行する融資のことです。金融機関がトラックレコードのない新興企業へ融資するにあたり、信用保証協会と自治体がそれぞれの形で支援することで、金融機関のリスクを軽減する仕組みとなっています。

まず信用保証協会は、万一企業が返済不能となった場合に代わりに返済の義務を負う(代位弁済)保証人となります。信用保証協会の利用には信用保証料の支払いが必要ですが、ここで都道府県や市町村といった自治体が、企業に信用保証料の補助を行います。加えて自治体は、金融機関に対して融資の貸付資金の一部を預託することにより、間接的に企業の金利負担を軽減します。

借り手となる企業としても、まだ実績のない段階でデットファイナンスの選択肢が増えるというメリットはありますが、ステークホルダーが多いため審査に時間がかかること、利用要件が様々であることには注意が必要です。

何よりも、「信用保証」はいわゆる保険とは異なる点を踏まえて慎重な判断を行いましょう。代位弁済が発生するということは、信用保証協会が企業に代わって金融機関に返済した後に、金融機関の代わりに残債務の取立てまで行うということです。多くの場合、信用保証利用時に経営者保証を付けられることになりますので、経営者個人に全額一括請求されることになります。実際には現実的な計画を立てて返済していくことになりますが、信用情報に登録されるため、企業とは無関係の個人としてのローンを組むことも難しくなってしまいます。

信用保証協会付融資

信用保証協会付融資とは、信用保証協会と金融機関の2者が連携して実行する融資のことです。仕組みとしては、先述の制度融資から自治体を除いたものとなりますので、大きな特徴は共通しています。

ミドル期以降のデットファイナンス手段

ミドル期のスタートアップは、売上が立ち、組織体制も整ってきて企業価値も上がっている段階です。エクイティファイナンスも依然として重要ですが、資本政策で今後イグジット(Exit)までにどの程度の希薄化を許容するかを考えると、デットファイナンスも実は有力な調達手段となります。シード期と比べ、ミドル期以降のデットファイナンスの選択肢は大きく広がり、本章では主だった5つを紹介します。

1. プロパー融資

プロパー融資とは、信用保証協会等からの保証を受けない、金融機関からの直接融資を指します。言い換えると、金融機関自身がリスクを負って貸出しを行ってくれるということです。一般的には、少なくとも3期分の決算書が必要とされ審査が厳しい分、保証付融資よりも金利は低くなります。スタートアップの場合は必ずしも理想的な条件で借入れできるとは限りませんが、先々の金融機関との関係構築も鑑みて、一定取入れる企業もあります。

2. 社債発行

社債とは、企業が資金調達を目的として発行する債券を指します。スタートアップは公募債の要件を満たすことが実質的に困難なため、私募により投資家を募ることになります。一般投資家を対象とする少人数私募の場合、投資家数は50人未満という条件があります。

融資との主な違いは、個人を含めた投資家から資金を集められること、また返済のペースとして、利払いは一般的に半年ごとまたは一年ごと、元本は満期日に一括償還となることです。無保証・無担保で発行可能で、発行条件も柔軟に設定できます。

発行条件の設計や、投資家とのマッチングなど一連のサポートを提供するサービスもあります。(参考:Siiibo証券による「オンライン私募」

3. ソーシャルレンディング

ソーシャルレンディングは、貸付型クラウドファンディングまたは融資型クラウドファンディングとも呼ばれています。仕組みとしては、不特定多数の投資家から、ファンドへの出資をオンラインで募集し、集まった金額をファンド業者を通じて企業に貸付ける、というものです。貸付けを受けたい企業がソーシャルレンディングを利用するにあたっては、第二種金融商品取引業者の仲介を受ける必要があり、手数料が金利に上乗せされます。返済方法については業者にもよりますが、一括返済、元利均等返済、元金均等返済といったパターンがあります。

公募の一種となるため、債権者の数は多くなりやすい一方、購入型クラウドファンディング同様にマーケティング的な要素が期待できる側面もあります。

4. レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)

SaaSに代表されるサブスクリプションビジネスを運営している場合は、RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)もデットファイナンスの選択肢となります。

リカーリング・レベニュー(継続収益)のある企業については、過去の売上データを元に、将来の売上予測が可能となることから、未来の売上の一部を現金化(法的には将来債権の譲渡)することで、資金調達を行います。資金の出し手はRBF事業者となっており、プロパー融資よりも金利は高くなりますが、無担保・無保証で、審査がモデル化されていることから着金まで数週間というスピーディな調達が行えます。返済は毎月行うことになりますが、額については事業者によって、定額型と変動型(実際の売上額に比例)のいずれも存在します。

なお、RBFはファクタリングと混同されることもありますが、ファクタリングは既に発生した売掛債権を現金化することから、デットファイナンスではなくアセットファイナンス(資産を売却することによる資金調達)に該当します。

5. デットファンドからの調達

従来よりプライベートデットファンドという形で、資産運用会社が適格機関投資家から資金を集め、相対的に信用力の低い企業への貸付けを行うファンドが存在していました。昨今はスタートアップ支援の機運の高まりから、スタートアップに特化したデットファンドの設立が続いています。 

デットファンドからは、金利水準はプロパー融資よりも高いものの、無担保・無保証で借入れを行える可能性があります。狭義のベンチャーデットとして、新株予約権付社債の形式または新株予約権と組み合わせる形で出資が行われる場合も数多く存在します。伝統的な金融機関の関連会社がファンド運営しているケースも少なくありませんが、融資とは基準が異なり、トラックレコードや担保の有無ではなく、将来的な資金調達可能性に着目して審査が行われるのが特徴です。

デットとエクイティの中間的な性質を持つことで、ファンド側にもリターンのアップサイドを設け、信用リスクを補完する位置付けとなっています。基本的にはエクイティファイナンスとの併用が想定されているため、エクイティ調達までのつなぎ資金としての短期間での借入れに対応しているファンドもあります。

ベンチャーデットの詳細はこちらの記事で紹介しています。

デットファイナンスはスタートアップにも有力な資金調達の選択肢

本記事では、スタートアップにとってのデットファイナンスの意義と、利用可能なデットファイナンス手段を網羅的に解説しました。

スタートアップの経営は不確実性が高い分、資金調達においても考慮すべき要素が多いからこそ、会社のフェーズに応じて適切にエクイティファイナンスとデットファイナンスのバランスを取っていくことが重要になります。

例え市況が厳しくても、「エクイティファイナンスが難しいので、とりあえずデットファイナンスしておく」というような場当たり的な判断ではなく、「デットファイナンスによって、どれだけ売上を立てつつ借入金を返済しながら、エクイティ調達までの期間を生き延びるのか」しっかり計画を立てた上で活用することが重要です。自社に最適なデットファイナンス手段を選定することが、経営の大きな助けとなることでしょう。