永久劣後債とは?メリット、デメリットをわかりやすく解説
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永久劣後債の特徴は弁済順位が低く満期日の設定がない
永久劣後債は、一般無担保社債だけでなく期限付劣後債と比べても弁済順位が低く、満期日が設定されていない債券です。弁済順位が低い分、比較的高い利回りとなるよう条件設定されることが多くなっています。
また、永久劣後債はハイブリッド証券とも呼ばれます。これは利息(クーポン)の支払いを受けられるという債券の特性と、価格変動リスクが大きいという株式の特性を兼ね備えているためです。
期限付劣後債よりも弁済順位が低い
弁済順位とは、企業が倒産した際といったデフォルト(債務不履行)時における債権者への元本や利息支払いの優先順位のことです。一般的な弁済順位は高い順から、担保付社債、無担保社債、劣後債、優先株、普通株、となります。
永久劣後債は、期限付劣後債(満期が定められている劣後債)よりも更に弁済順位が低いため、デフォルト時に元本が返済されない可能性はその分高くなります。また、弁済順位を債券内で比較すると、株式に近い位置であることが特徴です。
永久劣後債には償還期限がない
永久劣後債のもうひとつの特徴として、償還期限が設定されていない点があります。そのため、企業が破綻しない限り、利息の支払いが永久に続く仕組みです。
ただし、永久劣後債には繰上償還条項(コール条項)が定められていることが一般的で、設定されている繰上償還可能日に発行体の任意で元金の返還が行えるようになっています。
実際に、初回の繰上償還可能日で償還される事例が多く見られます。なお、初回の繰上償還可能日で償還されることをファーストコール、期日が到来した繰上償還可能日で償還されなかったことをコールスキップと呼びます。
永久劣後債に投資するメリット
弁済順位が低く、償還期限のない永久劣後債ですが、投資商品としてのメリットは、主に2点が挙げられます。
通常の社債よりも利回りが高い
永久劣後債は普通社債よりも利回りが高くなるよう設定されています。償還期限(満期日)がないことや、利払繰延条項(※)が発動するリスクを考慮して、利率が高いことが一般的です。
また、永久劣後債は変動金利の場合があります。変動金利の永久劣後債では、発行体があらかじめ定められた期日までに繰上償還(コール)しなかった時、以降の支払い金利(利率)が上昇するような仕組みが一般的です。
(※)利払繰延条項とは、発行体の任意で利息の支払いを繰り延べることができる特約事項のこと。未払いの利金は、次回利払日以降に合算して支払われる。
ドル建ての場合は円安に有利
永久劣後債は米ドルを始めとする外貨建てのものも多く、その場合、円安が有利に働きます。米ドル建て債券では、例えば1ドル=100円で購入し、償還時に1ドル=110円に円安が進んでいれば、ドルの償還金を円に替えることで為替差益を得ることができます。
ただし、反対に1ドル=90円に円高が進んでいる場合、円に替えることで為替差損が発生する可能性に注意が必要です。
永久劣後債に投資するデメリット
永久劣後債は投資家にとって魅力がある一方で、デメリットも存在します。投資対象として永久劣後債を検討する際には、そのリスクも十分に理解し、バランスの良いポートフォリオを構築することが重要です。押さえておくべき主なデメリットは以下の2点です。
デフォルト時の回収率が比較的低い
永久劣後債は、万が一デフォルトした場合に回収できる元本の割合が一般的に低いことがデメリットです。発行体が破産手続きを開始したなどの劣後事由の発生時、普通社債や期限付劣後債よりも弁済順位が低いため、元本や利払いが正常に行われないリスクが比較的高いといえます。
発行体が繰上償還を見送ると債券価格が下落する価格変動リスクがある
永久劣後債では、初回の繰上償還可能日に発行体による早期償還(ファーストコール)が行われることが一般的です。
そのため、ファーストコールが行われなかった(コールスキップ)場合、発行体の財務状況の悪化などが懸念されます。
この結果、債券市場において、発行体の信用力が低下したと判断され、価格が下落する可能性があるという点がもうひとつのデメリットです。
永久劣後債の発行事例
近年発行された永久劣後債の具体的な事例のひとつとして、楽天グループ株式会社の「米ドル建ノンコール5年永久劣後特約付社債(利払繰延条項付)」について解説します(下表上段)
この債券には利払繰延条項が付されており、発行体の任意で利息の支払いを繰り延べることができます。また、利率は変動金利となっており、発行から5年間は固定金利ですが、5年経過後は「(基準金利)+(当初スプレッド)+(0.25%のステップアップ金利)」の値が金利として適用され、更に20年が経過するとステップアップ金利部分が変化する設定となっています。
同年に発行された楽天グループ株式会社の円建て無担保社債(下表下段)と本ドル建て永久劣後債を比較すると、永久劣後債の利率が高く設定されていることがわかります。
発行日 | 償還日 | 利率 | |
---|---|---|---|
米ドル建ノンコール5年永久劣後特約付社債 | 2021年4月22日 | 定めなし | 5.125%(発行から5年間の固定金利) |
第16回無担保社債 | 2021年12月2日 | 2026年12月2日 | 0.60% |
※参考:楽天グループ株式会社 米ドル及びユーロ建永久劣後特約付社債の発行について
格付・社債情報
企業が劣後債を発行するのは、自己資本に算入できるため
企業の立場から見ると、永久劣後債を発行する理由は、負債による財務悪化を防ぎながら、借り入れによる資金調達を行うためです。
そもそも一般的な社債は、企業会計上「負債」として扱います。一方、永久劣後債は社債でありながら、国際財務報告基準(IFRS)においては「資本」として計上できます。そのため、IFRSを適用している企業では、永久劣後債を発行することで、負債を増やさず自己資本の増強が行えます。
なお、企業が「資本」を増強したい場合、新株発行による資金調達も可能ですが、「発行済株式数が増え、1株あたりの価値が下がる」、「企業価値の見積もりに使われるROE(自己資本利益率)が低下する」といったデメリットがあります。永久劣後債の発行は、これらを回避できる特徴を持っています。
金融機関が発行するAT1債も永久劣後債の一種
国際的な金融機関には、バーゼル規制(BIS規制)という自己資本比率等に対する規制が適用されており、自己資本を一定以上維持しておくことが求められています。そこで自己資本への算入を目的として、金融機関はAT1債(Additional Tier1)と呼ばれる永久劣後債を発行することがあります。
AT1債は、自己資本比率が一定の水準以下になるなどの事由が発生した場合、元本の一部または全部が削減される・株式に転換されるといった特約が付けられています。
2023年には、スイスの金融大手クレディ・スイス・グループが発行したAT1債が、特約条項のトリガーに抵触し、無価値化(全額減損)となった事例があります。
永久劣後債への投資はリスク・リターンを理解した上での選択肢
永久劣後債は、投資家にとって普通社債よりも比較的高い利回りが期待できる商品ですが、その分、弁済順位が低いといったリスクがあります。
購入を検討する場合は、特性及びリスクを正しく把握し検討することが重要です。