経済産業省によるベンチャーデット支援策とは?資金調達手段多様化に役立つ制度を紹介

公開日:2022年10月14日
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2022年6月7日、骨太方針2022(正式名称:経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~)が閣議決定されました。骨太方針内では、新しい資本主義に向けた改⾰における重点投資分野として、スタートアップ(新規創業)への投資も挙げられています。具体的には、実⾏のための司令塔機能を明確化し、同年末に「スタートアップ育成5か年計画」を策定予定です。

国策として大々的にスタートアップ投資に力を入れることが表明される中、民間の経済活力の向上などを任務とする経済産業省もこの10年ほど、新規事業の創出、スタートアップの創業・成長促進への取組みを進めています

本記事では、経済産業省によるスタートアップ支援の中から、ベンチャーデットに関する主な施策をピックアップしてご紹介します。

ベンチャーデットに関する経済産業省のスタートアップ支援策

経済産業省は、経済産業に関する政策の一分野として、新規事業・スタートアップを掲げています。日本経済の成長を取り戻すためには、イノベーションと社会的課題解決の担い手となるスタートアップの躍進が不可欠です。また、一時的なトレンド止まりで失速しないために、スタートアップが次々と生まれ、魅力的な人材や資金を集め、継続的に成長しながら事業の幅を広げていく、いわゆるエコシステムを形成していく必要があります。

このことから経済産業省は様々なスタートアップ支援策を提供しており、2022年6月に取りまとめられた「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧」
には、実に69もの支援策が掲載されています。支援類型としては、補助金、アクセラレーションプログラム、海外展開支援などと幅広く、各支援策の概要が1ページずつにまとまっていることから、あらゆるステージのスタートアップや関連するステークホルダーが活用できるものとなっています。

本記事ではまず、METI Startup Policiesに取り上げられている、ベンチャーデットに関わる2つの支援策を紹介します。

スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス

経済産業省は2022年4月に、「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」を公表しました。同ガイダンスでは、スタートアップのファイナンスの全体像やポイントがまとめられており、シード期からIPO後まで幅広いステージのスタートアップの参考になります

スタートアップのファイナンスといえば、株式発行によるエクイティ調達に関して語られることが一般的ですが、同ガイダンスではデット調達も含めて網羅しているのが特徴的といえます。
ミドルステージからレイターステージ向けに、株式発行以外での資金調達手段が有利な場面も存在することから、幅広い資金調達手段の活用検討を投げかけています。

同ガイドライン中の「未上場時の幅広い資金調達手段の活用」ページでは、具体的なデット調達手段として借入、社債、劣後ローン・資本性ローンが、エクイティとの中間的な性質を持つ調達手段としてコンバーティブル投資手段が挙げられています。

デット調達の代表的な手法である借入に対しては、金融機関から融資を受ける際には経営者保証(経営者個人が会社の連帯保証人となること)を要求される場合が多く、先々重要な問題になりかねない点に注意喚起しています。

また、日本ではまだ広まっていないベンチャーデットに関しても、伝統的な融資との違いや欧米での活用状況を取上げて、今後の展開への期待をにじませています。

ベンチャー・ファイナンスの多様化に係る調査報告書

同ガイドラインで触れられている、欧米でのベンチャーデット活用状況の元となった調査の一つが「ベンチャー・ファイナンスの多様化に係る調査書」です。同報告書はスタートアップの資金調達手段多様化を促進する施策の検討にあたり、前述のガイダンスが公表される約1年前に取りまとめられました。内容としては、海外におけるベンチャー・ファイナンスにまつわる制度・動向が紹介されており、「米国および欧州におけるベンチャーデット」についても一章を割いています。ベンチャーデットの活用で日本の先を行く欧米それぞれにおける市場規模、主なプレイヤー、実際の投資条件などについて把握することができます。

ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度

METI Startup Policiesで取上げられているもうひとつのベンチャーデットに関する支援策が「ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度」です。同制度は、前述の「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」でもデット調達手段として紹介されています。

ディープテック(大規模研究開発型)ベンチャーは、量産体制整備等のために大型の資金調達を必要とし、また収益化までに必要な期間も長いケースが多いことから、借入を行いやすくするための支援策として2021年8月に導入されました。

同制度では、一定の条件を満たすディープテックベンチャーが民間金融機関から融資を受けるにあたり、経済産業大臣からの認定を受けることで、独立行政法人中小企業基盤整備機構が債務保証を行います。保証率50%、保証料0.3~0.4%、最大保証金額は一件あたり最大25億円とされています。実際に2022年5月には初めての活用事例として、三菱UFJ銀行がFintech企業のOPN株式会社(旧SYNQA)に対し、50億円の融資契約を締結したと発表しました。経営者保証が必須でなく、最大保証金額も大きいことから更なる活用が期待されます。

※参考:ニッキンONLINE 「三菱UFJ銀、ディープテックベンチャーに50億円融資 経産省保証を初活用」

省庁によるベンチャーデットに関するその他の取組み

ここまでは既に提供されている支援策を紹介してきましたが、今後の展望を見据えるための参考情報として、過去の経済産業省による調査報告書におけるベンチャーデットの取上げられ方を紹介します。

「令和元年度戦略的基盤技術高度化・連携事業(ユニコーン創出に資する中小企業・スタートアップの海外展開及び資本政策のあり方に関する調査事業)調査報告書」は、時の安倍政権で閣議決定された「未来投資戦略2018」に基づき、「企業価値又は時価総額が10億ドル以上となる、未上場ベンチャー企業(ユニコーン)又は上場ベンチャー企業を2023年までに20社創出」という目標の実現に向けて、効果的な政府支援を検討するために実施された調査事業の最終報告書です。

同調査によれば日本における課題のひとつは資金調達環境にあり、具体的に「エクイティに依存しデット資金が不足」と指摘されています。そのためエクイティ以外の調達オプションについての分析が行われ、ベンチャーデットの活用可能性も模索されています。具体的にはベンチャーデットの海外と日本の状況を対比することにより、打ち手の検討が行われました。

特筆すべきは、海外事例として欧米だけでなく韓国の取組みも紹介されている点です。韓国ではまだ欧米ほどベンチャーデットが広がっていないことから、活用推進のために、政府から金融機関に対する支援施策が提供されているとのことです。韓国のような日本と状況の近い事例も参考にしながら、結論としては以下の打ち手が有効ではないかと提案されています。

  • 新たな業界団体「ベンチャーデット協会」を発足
  • 認定ベンチャーキャピタルから出資を受けたスタートアップについては、信用保証協会による保証限度額の引き上げ

まだいずれも実現に向けた動きはありませんが、経営者保証なしで融資を行うための別のアプローチとして、金融庁主導で「事業成長担保権」という新しい概念の担保権の制定に関する議論が進んでいます。一般的な担保権は、有形資産(不動産、動産、有価証券など)に対してのみが対象とされていましたが、事業成長担保権は、無形資産を含む事業全体に対する包括的な担保権を選択肢に含める構想です。すなわちノウハウ、顧客基盤、知的財産権なども担保の対象に含まれることになり、無形商材を扱うスタートアップのように有形資産を十分に持たない場合でも、デットでの資金調達が行いやすくなると目されています。2022年10月現在まだ導入はされていないものの、経団連によるスタートアップ躍進ビジョン内でも言及があり、期待感がうかがえます。

ベンチャーデット活用にあたっては、公的支援策にも要注目

日本の経済成長に向けて、官公庁によるスタートアップの育成・支援策が次々と導入されています。
本記事では、経済産業省によるベンチャーデット促進の取組みに着目し、「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」と「ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度」について解説しました。

日本でもベンチャーデット市場が発展し資金調達手段の多様化が進むよう、海外の動向も踏まえて様々な検討がされていることから、今後も新たな支援策が提供されるものと考えられます。
ベンチャーデットによる資金調達を検討している企業の関係者の方は、経済産業省をはじめとする公的な支援策に活用できるものがないか、調べてみてはいかがでしょうか。

>>ベンチャーデットに社債を活用する方法についてはこちら

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